スポーツ業界で求められる「未来人材」とは?

「スポーツ業界」と聞いて、プロ選手や監督、コーチといった「表舞台」の存在を思い浮かべる人が多いかもしれません。 しかし、近年のスポーツビジネスの進化は、裏方や支援側の人材によって支えられている側面が非常に大きくなっています。 特にテクノロジーの発展、ファンエンゲージメントの深化、社会的意義の拡大などにより、必要とされるスキルや人材像が急速に変化しています。 本記事では、各種データや事例を元に、これからのスポーツ業界で求められる「未来人材」の特徴や、育成・キャリア形成の課題についてご紹介します。
スポーツ業界の構造変化と人材ニーズの変遷
スポーツ市場の拡大と多様化
スポーツ業界の市場は年々拡大しています。
経済産業省の調査によると、日本国内のスポーツ関連市場は年々拡大しており、フィットネス、観戦、グッズ、eスポーツなど、多様なセグメントが生まれています。
これに伴い、従来の「競技者」「指導者」以外の職種も急増しています。
特にスポーツビジネス(マーケティング・スポンサー営業・メディア運用)や、スポーツテック(データ分析・ウェアラブル開発・アプリ運用)など、テクノロジーとビジネスの両軸を持った人材が必要とされるようになってきました。
「組織」と「人材」に関する考え方の変化
プロスポーツチームの中には、いまだに「体育会文化」的な上下関係を重視した組織文化が根強く残る一方、ベンチャーや民間主導の新興クラブでは、成果主義・データ主義をベースにした人材配置が進んでいます。
例えば、Bリーグの「アルバルク東京」や、Jリーグの「FC今治」は、ビジネス部門に外資系企業出身者やスタートアップ経験者を積極採用し、新しい組織づくりを実践しています。
スポーツ人材の「現在」と「未来」
情熱ドリブン型人材(現在)
現在のスポーツ業界では、「スポーツが好き」「チームを応援したい」という情熱をモチベーションとした人材が主流です。
大学時代に体育会やマネージャー経験のある学生が、そのまま業界に入るケースも多く見られます。
しかしこの情熱型の人材は、時に「ビジネス的視点」や「デジタル知識」に欠けるケースもあります。
実際、多くのクラブがSNS運用やデータ活用に課題を抱え、外部委託に頼っているのが現状です。
複合スキル型人材(未来)
一方、未来の人材としてこれから求められるのは、以下のような「スポーツ×●●」の複合スキル型人材です。
- スポーツ×データ:データアナリスト、パフォーマンスアナリスト
- スポーツ×地域連携:地域創生・官民連携の企画人材
- スポーツ×デジタル:SNSマーケター、動画編集者、アプリディレクター
例えば、プロ野球チームでは「データ活用部門」を新設し、外部から統計学やAIを専門とするスタッフを迎え入れています。
こうした人材は、もはやチーム運営の「裏方」ではなく、「核」になりつつあります。
スポーツ業界に「足りていない人材」とは
スポーツへの理解が必要な「デジタル人材」の不足
文部科学省と経済産業省の共同調査(2023年)によると、スポーツ業界で最も不足しているとされるのが「デジタルリテラシー人材」と「データ分析人材」です。
- チーム・クラブ関係者の73%が「データ分析スキルのある人材が不足」と回答
- SNS・WEBマーケティング分野の即戦力人材も63%が「慢性的な人材不足」と回答
上記のデータからも分かるとおり、「技術的スキルと」「スポーツへの理解」の両方を持つ人材は非常に少なく、即戦力として貴重なのです。
考え方のギャップによる「若手人材」の不足
一方、学生のキャリア志向を見てみると、「就職ブランドランキング」において、スポーツ業界は全体の上位50社にほとんど登場していません。
この背景には、以下のような要因が考えられ、これらを解消しない限り、未来の有望な人材がスポーツ業界を志望する確率は低くなってしまいます。
- 「給与が低そう」「将来性が不透明」というネガティブなイメージ
- 明確な職種像やキャリアパスが提示されていない
- 体育会文化への抵抗感
スポーツ業界に必要な「未来人材」になるために
大学のカリキュラムやスポーツ業界との連携を活用
例えば、順天堂大学スポーツ健康科学部では、「スポーツ産業論」「スポーツ政策」「データサイエンス入門」などを統合的に学べるカリキュラムを展開しています。
また同大学では、Jリーグクラブとのインターン提携も進んでいます。
その他、早稲田大学や日本体育大学では、eスポーツやスポーツアナリティクスを取り入れた授業が導入され、より実務的・実践的な人材育成が始まっています。
このように、積極的にカリキュラムや課外活動に「スポーツを学ぶ」ことが取り入れられているため、これらを活用することも「未来人材」になる一手となります。
スポーツ業界に入った後でも「未来人材」になることは可能
クラブ・団体・企業側でも、以下のような「未来人材が育つ環境整備」が整いつつあります。
- 上下関係だけに依存しないOJT設計
- 副業・兼業OKのフレキシブルな働き方の導入
- 「データを見る文化」「失敗から学ぶ文化」の醸成
例えば、Bリーグの宇都宮ブレックスは、インターン生や新卒メンバーにも業務提案のチャンスを与える「フラット組織」を意識的に構築しており、若手育成の成功事例として注目されています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。スポーツ業界の未来は、熱意だけでは支えられません。
ビジネス、テクノロジー、地域連携など、多様なスキルを持った人材の参入が、業界全体の変革を加速させます。
一方で、情熱のないスキルもまた空虚なものです。
求められるのは、「スポーツが好き」という軸を持ちながらも、冷静に社会や顧客と向き合える人材です。
教育、業界、社会全体が一体となり、「スポーツ業界で働きたい」と思える環境を育てていくことが、未来の競技力や産業力の源泉になるはずです。
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